名古屋高等裁判所 昭和26年(う)62号 判決
原判決は判示第二に於て所論の事実を認定し之が証拠として原審に於ける証人松井勘市及同福田吉二の各証言を採用していること所論の通りであるが、右挙示の証拠を綜合すれば原判示第二事実は認められないことはない、尤も右松井勘市が被告人から所論の土地を買受けた際右土地は解放農地であるから宅地に地目変更の手続をする迄建物を建築しないでおいて呉れとの申出があつたこと及右地目変更の手続を済まさない間に右松井に於て建物を建築したことは右証拠に依り明かであるが、地目変更の手続をしない間に松井が建築をした場合被告人に右土地売買契約の解除権を留保する旨の特約をした事実は認められない。又右松井は右土地の買受代金全部を支払ひ土地の引渡も受け現に占有中であるが、所有権移転登記は未了であることは記録上明かである。斯る場合右松井が被告人の申出の趣旨に反して家屋を建築したとしても私法上被告人に本件売買契約の一方的解除権乃至買戻権ありとは解せられない。従て松井が右建物を建築するも被告人に土地明渡請求権や損害賠償請求権もないと謂ふべく其他民事上の財産給付の請求権あることは本件記録上は認められないから本件金員の交付を以て契約上の権利行使であり契約違反の賠償的緩和策なりとの所論は失当たるを免れない。而して被告人は右松井に対し判示のような害悪の告知を為し続いて金借申出を為し因て該金員を交付せしめたのであるから本件が恐喝罪を構成することは論を要しない。
尚本件金員の交付に付ては被告人の弟福田吉二が被告人と松井間を奔走したこと所論の通りであるが、右吉二は被告人の代理として被告人の意を体して行動したものであることは前記挙示の証拠に依り明かであるから本件の金員交付が右吉二独自の意見に依る融和解決であつて被告人の所為ではないとの所論は採用に値しない。論旨は何れも理由がない。
(三)同上論旨第三点について。
原判決書に依れば原判決は其理由中罪となるべき事実の判示第一に対する証拠として
一、渡辺慶太郎に対する司法警察員の供述調書
一、同人に対する副検事の供述調書
一、同人に対する裁判官の昭和二十四年九月二十一日附証人訊問調書
一、渡辺三郎に対する副検事の同年九月三日附供述調書
一、同人に対する裁判官の同年九月十九日附証人訊問調書
を挙示していることは所論の通りである
又原審第六回公判調書(昭和二十五年九月二十七日)の記載に依れば同公判立会の川上検察官は右渡辺慶太郎、渡辺三郎に対する検察官の各供述調書に付証拠調の請求をし其理由として同人等の昭和二十四年十一月五日の公判準備に於ける供述は同人等の前の供述と相反し犯罪事実の証明に欠くことのできないものであるから刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号に依り取調を請求すると述べ、渡辺慶太郎、渡辺三郎に対する司法警察員の供述調書は検察官の供述調書に引用されてゐて之と一体を為すものであるから前同様刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号に該当すると述べ被告人並弁護人は右調書の取調請求についてはその供述が特に信用すべき情況の下にされたものでないから異議ある旨述べたところ判事は弁護人申出の異議は相当ならずと認め却下する、右調書につき証拠調を為す旨宜し、次で之につき証拠調をしたこと所論の通りである。而して本件記録を精査すると右渡辺慶太郎及渡辺三郎に対する副検事の供述調書は同人等の原審に於ける証言が右副検事の面前に於ける前の供述と相反し且前の供述を信用すべき特別の情況が存すると認められるから証拠能力のあることは明かである又同人等に対する司法警察員の各供述調書は同人等に対する副検事の昭和二十五年九月三日附右供述調書第一項に引用されていること明かであつて右副検事の供述調書の一部を為しているものと謂うべきであるから右副検事の証拠調請求に当然包含されており之を独立の証拠として取調請求する必要なきものである。而して被告人以外の者の供述を録取した司法警察員の供述調書は刑事訴訟法第三百二十一条第一項第三号の場合にのみ証拠能力を有し本件のような場合には証拠能力を有しないこと勿論であるに不拘、原審立会検察官は之を誤解して司法警察員の調書を独立の証拠として其取調を請求し、原審が之に対し弁護人の異議を却下し証拠決定を為し証拠調をしたこと並原判決の判示事実認定の証拠として右渡辺慶太郎に対する司法警察員の供述調書を採用したことは訴訟手続に関する法令に違反し違法たるを免れない。けれども前記の如く右供述調書は副検事の供述調書に引用せられて其の内容の一部となつて居て原判決挙示の証拠中右司法警察員の調書を除くも爾余の証拠で十分判示事実を認定できるから右の違法は判決に影響を及ぼしたとは認め難く未だ原判決を破毀するに足るものではない。
(中略)
(六)B弁護人の控訴趣意第一点について。
原審が所論の渡辺慶太郎及渡辺三郎に対する司法警察員並副検事の各供述調書を弁護人の異議を却下して証拠とするには同人等の供述が特に信用すべき情況の下に為されたものかどうかを調査することを要することは所論の通りであるが、右特に信用すべき情況なるものは之が存在につき特に証拠調を要するものではなく、供述が任意に為されたものであることを窺知し得るものがあれば足るものと解すべく、又右特段の情況調査の方法も任意の方法に依ればよいのでその調査したことを特に訴訟手続の上に現わす必要もないと解する、而して本件の渡辺慶太郎及渡辺三郎に対する検察官の供述調書は其書面に供述者の署名捺印があり、その供述の内容が具体的で自然で矛盾もなく一貫している点等から同人等の検察官の面前に於ける供述は任意に為されたものと認めることが出来るから前記検察官の供述調書には信用すべき特別の情況存するものと解するのが相当であり原審も斯く認定したものと認められるから原判決が右調書は刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号に該当しその証拠力を肯定したのは正当である。之を目して法令違反なりとする所論は理由がない。
又右渡辺三郎に対する副検事の供述調書に於ける供述の主要部分が伝聞事項の供述であつて右伝聞証拠を証拠として採用したことが所論の訴訟手続上の法令違反であるとしても原判決挙示の爾余の証拠に依れば尚原判示事実を認定し得るから右供述調書の採用は実質的には原判決に影響を及ぼしたものと認め難く右違法は原判決破毀の理由とするに足らない、其他の所論については前記(三)の判断と同一であるから茲に之を引用する、従て論旨は何れも理由がない。
(註 本件は事実誤認により破棄自判)